かつて地球の環境問題として話題となった、酸性雨について知っていますか?
木々が枯れてしまったり、コンクリートが溶けてつらら状になるといった被害で、世間が騒ぎになりました。
最近は、めっきり酸性雨の言葉を耳にしなくなったので、解決された問題と思っている方もいるかもしれません。
しかし、2020年現在においても、いまだに酸性雨は降っています。
現状、酸性雨の被害と断定できるものは国内では起きていませんが、調査は今でも続いており、問題は終わっていません。
そこで今回は、酸性雨とは何か、今一度見直して解説します。
タイトル
酸性雨とは
酸性雨とは、その名の通り、強い酸性となった雨が降る現象のことです。
狭義では、pH5.6以下の雨を指します。
そのほか、地表を酸性にする雪や霧などの降下現象全般を指すこともあります。
世界で初めて酸性雨の存在が明らかとなったのは、19世紀のイギリスです。
この報告を行った著作内で、「acid rain」という言葉を使ったのが、酸性雨の始まりと言われています。
酸性雨のメカニズム
酸性雨は、雲を形作っている水滴や雨粒に、酸性の物質が溶け込むことによって発生する現象です。
そもそも、雲は水蒸気が凝結した水滴によって、構成されています。
そして、水蒸気は物質を核として形成されており、何かしらの成分が溶け込んでいるのです。
また、雨として落下してくる途中にも、大気中の物質を取り込みます。
その物質が酸性である場合に、酸性雨となるのです。
酸性雨の原因
酸性雨の原因となる代表的な物質は、次の2つとなります。
- 硫黄酸化物(SOx)
- 窒素酸化物(NOx)
通常時に降ってくる雨は、pH5.6程度の弱めの酸性です。
これは、大気中に含まれている二酸化炭素が溶け込むことが、原因となります。
どんなにきれいな大気であっても、起こりうることなので、これは酸性雨とは呼ばれません。
しかし、上記で挙げた2つの物質は、大気中で化学反応を起こすことで、硫酸や硝酸といった酸に変化します。
これが雨粒に溶け込むことによって、強い酸性を持ってしまいます。
物質が発生してしまう原因は、工場や自動車などから排出されるガスです。
いずれも、大気汚染を引き起こす原因として、よく知られていますね。
そのほかの大気汚染に関わる物質も、酸性雨の発生に影響を及ぼしているのです。
また、火山の噴火によって発生するガスにも、硫黄酸化物の1種が含まれているので、局地的な酸性雨を引き起こします。
酸性雨の被害
酸性雨によって、多くの被害が発生することが確認されています。
以下の4つが代表的な被害例です。
- 森林への被害
- 建造物への被害
- 生き物への被害
- 人類への被害
それぞれの被害について、詳しく説明します。
森林への被害
酸性雨の被害として、よく取り上げられるものが、森林の木々が枯れてしまう被害です。
森林への被害として、3つの原因が考えられます。
- 木々への直接被害
- 土壌への被害
- 周辺の生物環境の変化
森林の木々は、pH2.0~pH3.0の酸性で、成長を阻害されるという実験成果があります。
チェコ・旧東ドイツ・ポーランド国境に広がる黒い三角地帯で、直接的な被害を受けていることが確認されました。
日本国内では、酸性霧による被害が発生しています。
霧は、雨と比べて木々と接触する時間が長いため、影響を受けやすいです。
具体的には、葉っぱの表面にあるワックス層が分解されてしまいます。
それによって、乾燥しているときに水分をコントロールできなくなって、枯れやすくなるのです。
また、酸性雨によって、土壌が酸性になってしまう被害もでています。
土壌が酸性となってしまうことによって、木々の栄養となるリンといった物質が溶出して、不足してしまうのです。
この状態が続くと、樹木が弱まり、枯れる原因となります。
さらに、土壌が酸性になると、地中の微生物の種類も変化してしまいます。
酸性に耐性のある微生物が増えてしまうので、地中の環境が大きく変わってしまうのです。
加えて、ナラタケ菌という樹木を枯らせる菌類が、繁殖しやすい環境も整ってしまいます。
建造物への被害
酸性雨は、建造物を溶かしてしまう被害をもたらすことがあります。
酸の成分が金属と化学反応を起こして、水に溶けやすくなってしまうのです。
結果として、金属の腐食が進んで錆びやすくなったり、黒ずんでしまいます。
例えば、銅像に緑や白色の筋状のサビが見られますが、これが原因です。
そのほか、コンクリートや大理石の疵から酸性雨が侵入して、劣化を促す特徴も持っています。
コンクリートが溶けて、つららのようになっている現象がその1つです。
建造物の景観はもちろん、耐久性も大きく損なうので、大変危険となります。
また、文化財への影響も、日本を含め多くの国で懸念されています。
貴重な歴史的遺物である文化財は、しばしば外に置かれているのです。
そのため、酸性雨の影響を大きく受けてしまいます。
特にヨーロッパの文化的な古い建造物は、酸に弱い大理石で作られていることが多く、被害が大きくなっています。
修復を行うとしても、そのためのコストが莫大であるのがネックです。
さらに、破壊をともなう資料の採取が難しい特殊性もあります。
このような事情もあって、酸性雨に対する迅速な対策が求められているのです。
生き物への被害
酸性雨は、河川や湖沼の生態系にも影響を及ぼします。
川や湖が酸性化してしまうことによって、生物が住めない環境になってしまうのです。
魚類は感受性が強く、pH値が5以下の環境では生息できません。
例えば、サケ科などの魚はあまり酸性に強くないので、死んでしまいます。
さらに、ヒメマスは酸性化に敏感に反応し、ほんの少しpHが下がっただけで、産卵をやめてしまうのです。
また、酸性雨による影響で、土壌から生物にとって有害となるアルミニウムイオンが流れ出てしまいます。
プランクトンから小魚、大型魚へと食物連鎖によって生物濃縮され、死滅してしまうのです。
そのほか、酸性雨は農作物にも影響を及ぼします。
pH値が2~3の場合、多くの作物の外見に被害が見られます。
それにより、収穫に影響がでるほか、商品価値が下がってしまうのです。
特に酸性霧だと、pH値が低下しやすいほか、長い時間留まるので、影響が大きくなります。
人類への被害
人体に与える影響として、
- 直接的な影響
- 間接的な影響
の2つに分けられます。
pH2.0~3.0程度の酸性雨の場合、人体に直接的な影響が見られます。
特に、霧や霧雨は、成分が濃縮されて強酸性になることが多いです。
さらに、長い時間肌に触れることになりますので、被害が大きくなりやすいです。
具体的な被害としては、
- 目やのどへの刺激
- 皮膚の激しい痛み
などといった、症状が確認されています。
2020年現在においては、ここまで強酸性の雨や霧、霧雨は確認されていませんが、今後もそうであるとは限りません。
酸性雨の間接的影響としては、地下水の酸性化による被害が考えられます。
地下水の酸性化によって、土壌や水道配管の素材から、有害な重金属が水に溶けだしてしまいます。
それらを摂取してしまった場合、人体に出てくる影響は次の通りです。
- 下痢
- 頭髪色の変化
- アルツハイマー病
汚染された水を飲んでしまうことで、アルミニウムなどの有害な重金属が体内に蓄積し、症状が出てきます。
個人ができる酸性雨への対策方法
酸性雨の問題を解決するには、国際的な協力が肝心ですが、それには個人レベルからの対策が大切です。
日常生活の中で個人でできる対策として、以下の3つが挙げられます。
- 電気の使用量を減らす
- 乗用車の使用を控える
- ゴミの分別をきちんとする
それぞれ、どのような効果があるのか、解説します。
電気の使用量を減らす
電気の使用料を減らすことで、火力発電所から発生させられる物質を減少させることが可能です。
日本における発電施設の8割を、火力発電が占めています。
この割合の高さの要因の1つとして、原子力発電所の稼働停止が挙げられます。
最近では、再生可能エネルギーも注目されていますが、コストや効率といった面から、まだまだ研究が必要な分野です。
また、火力発電に使われている燃料は、石炭といった化石燃料や天然ガスがメインとなっています。
燃料を燃やすことで発生する硫黄酸化物や窒素酸化物といった物質が、酸性雨の原因となるのです。
そこで、日頃から電気の使用量を減らすことで、少しずつですが有害物質の排出を押さえられます。
具体的な対策としては、
- 利用していない家電の電気をこまめに消す
- 人がいない部屋の電気を消す
- 必要に応じた適切な使用を心掛ける
などといった対策が挙げられます。
省エネと同時に電気代の節約にもなるので、積極的に取り組んでみましょう。
乗用車の使用を控える
大気汚染への対策として、一般的なガソリンで動く車の使用を控えるのも効果的です。
乗用車から排出されるガスは、窒素酸化物が多く含まれており、大気汚染の大きな原因となっています。
そのため、できるだけ車の使用を控えることが、大気汚染への対策となるのです。
具体的には、
- 徒歩や電車ですむような距離の移動に車を使わない
- アイドリングストップを心掛ける
といった対策が挙げられます。
また、排ガスを抑えるには、PHVや電気自動車などといった、環境性能車に乗り換えるのも手です。
電気で動くため、ガソリンの燃焼による排ガスを大きく抑えることができます。
燃費もよいのが、うれしい点ですね。
しかしながら、いまだに充電設備が十分に揃っていないというデメリットがあります。
加えて、動力は電気ですので、やはり積極的な利用はできるだけ控えた方がよいでしょう。
燃料電池自動車に乗るという手段もありますが、燃料である水素の確保が問題となっています。
ゴミの分別をきちんとする
ゴミの分別をしっかりと行うことも、焼却エネルギーの削減につながる大切な行為です。
ゴミを焼却することで、温暖化の原因の1つであるCO2が多く排出されてしまいます。
できるだけ焼却を抑えられるように、ゴミの分別をしっかり行うことが大切です。
現在、法律で定められているリサイクルできる物品は、次の通りとなります。
- プラスチック等の包装類
- ビン・カン・ペットボトル
- エアコンやテレビ等の大型家電
- 食品
- 建材
- 自動車
- 小型家電
このうち、家庭で簡単にできる分別は、プラスチックやペットボトルなどでしょう。
分別をしっかりと行うことで、焼却コストを抑えられるほか、埋立地の負担を軽減できます。
また、そもそもゴミを出さないようにする工夫も大切です。
こまめにメンテナンスをして、長い間使用し続けることで、ゴミの排出を抑えられます。
壊れたとしても、修理可能であるならば、できるだけ修理をしましょう。
そのほか、壊れにくい質のよい商品を買うようにするのも大切です。
メンテナンス性に優れていると、なおよいでしょう。
まとめ
以上、酸性雨について、その原因と対策をご紹介しました。
ここまで紹介してきた内容を、簡単に振り返ってみます。
酸性雨とは、簡単に言えば、強酸性の成分が溶け込んだ雨のことです。
この酸性成分の原因として代表的なものとして、
- 硫黄酸化物(SOx)
- 窒素酸化物(NOx)
の2つが挙げられます。
いずれも、大気汚染の原因となっている、有害な物質です。
そして、酸性雨が降ることによって、次のような被害が発生してしまいます。
- 森林への被害
- 建造物への被害
- 生き物への被害
- 人類への被害
どれも、将来的に重大な問題となるものなので、迅速な対応が必要です。
酸性雨の対策には、国際的な対策が必要ですが、個人の対策も欠かせません。
- 電気の使用量を減らす
- 乗用車の使用を控える
- ゴミの分別をきちんとする
これらをしっかり心掛けることで、少しずつですが、酸性雨を抑えることができます。
酸性雨はいまだに解決されていない問題であり、将来的に影響を残しかねません。
今から、少しずつでも意識して対策を行うことが大切です。
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